
漆の精製と調合
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縄文から続く、持続可能な天然資源「漆」
漆とはアジアでのみ生息し、ウルシの木から採取される天然の樹脂。古くは縄文時代(約10000年前)から塗料や接着剤として使われてきました。10年から15年かけて育てた木から、わずか200gほどしか採れない貴重な自然の恵み。漆掻きと呼ばれる職人がウルシの木に傷を入れ、滲み出る樹液を5ヶ月ほどかけて少しずつ採取します。漆は木に傷がつくと自分を守るために樹液を出し固まります。人間に例えれば、傷を守ろうとカサブタを作る血液みたいなものです。

漆の塗膜は、しっとりと人の肌に馴染み、まるで赤ちゃんの肌の様と例えられる程、心地よく、温もりがあります。天然の抗菌作用もあり、安心·安全の観点からも優れています。使い続けることで生まれる独特の艶や質感は、化学塗料には出せない天然ならではのもの。自然と愛着が沸き、大切に使う。劣化しても塗り直して世代を超えて使える。物を大切にする心を養い、ご先祖様を敬うことにもつながる。高級品としてのイメージが強いかもしれませんが、永く、繰り返し使用出来、実は日常使いに適した身近なものなのです。

受け継がれる伝統の漆精製技術
創業明治42年の堤淺吉漆店。100年以上漆屋として歩んできましたが、1万年続く漆の歴史の中では、ほんの一瞬でしかありません。そんな中で、初代堤淺吉から受け継がれる伝統的な漆の精製工法は、その歴史の一ページとして未来永劫続いていく確かな技術だと自負しています。
私たちは、生産者から漆の樹液(原料)を仕入れ、精製・調合し、使い手である職人や漆作家たちに漆を届ける繋ぎ役です。原料である荒味漆に含まれる木屑などを取り除き(漆濾し)、黒や朱などの様々な漆を精製しています。受け継がれてきた伝統技法と研究開発した独自製法を駆使して、目的用途に的した様々なご要望にお応えします。

漆精製は「自然との対話」
漆漉しによってろ過された生漆(きうるし)は、そのまま下地や摺り漆などに使われる場合と、精製され塗り漆として使用される場合があります。精製は、生漆を専用の攪拌機(クロメ鉢)に投入し、「ナヤシ」と呼ばれる撹拌作業と「クロメ」と呼ばれる水分調整の作業を行います。桶毎に異なる漆の性格や日々の気候などによって仕上がりが変わる漆。当社は、精製職人の豊富な経験とデータの蓄積によってお客様のニーズに合わせた様々な漆を製造しています。精製は「自然との対話」です。
漆樹液の保存

産地から送られてきた漆樹液(荒味漆)を一年中大型冷蔵庫の中で恒温管理し、常に新鮮な状態で原料漆を保てるよう品質管理を行っています。
荒味漆の濾し上げ作業
保存していた荒味漆から木屑などを取り除く「漆漉し」の作業を経て、綺麗にろ過された「生漆(きうるし)」が精製されます。
1.

荒味漆を湯せん鍋に投入します。
2.

綿を練り込み、荒味漆に含まれている木屑等を付着させます。
3.

綿の練り込み完了。
4.

細かいメッシュの金網と寒冷紗をセットした遠心分離機にて荒味漆を漉し上げします。
5.

綿と寒冷紗によって木屑などの不純物が取り除かれ、生漆が精製されます。
塗り漆の精製
ナヤシ
専用の大きな鉢(クロメ鉢)で生漆を撹拌し、漆の粒子を均一化することで、塗り上がりの塗膜をより緻密で平滑にする重要な工程。この撹拌の回転速度や時間によって漆の艶や乾きを調整することが出来ます。

クロメ
ナヤシをした漆に熱をかけて余計な水分を取り除く作業。こちらも熱をかける時間などによって漆の粘度や乾きを調整することが出来ます。
当社は熱をかける温度管理を徹底し、酵素(ラッカーゼ)の働きが活発な状態を維持して精製しています。

色漆の製造
1.

漆と顔料を荒練りします。
2.

三本ロールミル練合機にて荒練りした色漆をより細かく練り合わせ高品質の色漆を精製します。
調合・調色
お客様の要望に合わせ、数種類の漆をブレンドし、艶・硬化速度・粘度を調整。また、オーダーメイドの色漆は、複数の顔料を組み合わせ、調色します。

テスト
1.

調合した漆をガラス板に同じ膜厚で塗り、お客様の要望になっているかをチェックします。当社では「ツケをとる」と呼んでいます。
2.

漆を塗ったガラス板を恒温恒湿乾燥室に入れ、一定条件で硬化速度のテストをします。また、透け具合や艶加減、色などもチェックしデータ保存します。
品質管理
荒味漆や毎日精製される様々な漆は、品質管理を徹底しながらストックし、お客様のご要望にお応えしています。
